今回は安武わたる先生の「声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~」108話を読んだので紹介します。

この記事は高確率でネタバレを含みます。
物語の結末を知りたくない方はご注意くださいませ。
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声なきものの唄 108話 あらすじ
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巴太夫の人気のおかげで開店後しばらくは客足が途絶えることがありませんでしたが、家族を養うためにこの先もずっと店を維持していかなくてはならないというプレッシャーが明子の肩にのしかかります。
さらに、戦地から帰ってきてから気力を失ってしまった徳次との関係も明子を精神的に追い詰めていました。
そんな時に料亭へ久米親分が訪れ、彼と明子の仲を噂する言葉をなんと徳次が聞いてしまい・・・。
声なきものの唄 108話 ネタバレ
チヌの先輩女郎であり、引退後は下駄屋の妻となっていた明子の夫・徳次は、爆裂弾によって両目を負傷した状態で戦地から帰ってきました。
そのため、視力を失った夫と実母、そして自分の食い扶持を稼ぐべく、明子は泉州屋をたたんで矢萩町にあった料亭を居抜きで買い、「巴」の名を看板に掲げて女将として働きはじめます。
かつて千鳥太夫の旦那候補として名乗りをあげていた酒造家の加来や、巴太夫だった頃の贔屓客らの紹介や協力によって、お店は順調なスタートを切ることができました。
ただし訪れる客の多くは明子が目当てで、あわよくば・・・と彼女に迫る不埒な考えの者も少なくありません。
しかし非常に有能な女中頭のトキが言う通り、
「『使えるモン』はなんでも使うて儲けるんが、商売人の筋」
であると割り切って、自身の家族や雇い人らの生活を支えるため、明子は日々気も体も張って女将の仕事をこなしていました。
一方、多くの犠牲者が出たという奉天会戦から帰還して以来、徳次はすっかりぬけ殻のような状態となってしまっていました。名医と呼ばれている医師の診察を何度か受けたものの視力は戻らず、そのせいか口を開くこともほとんどなくなった彼は食欲もわかないようで、やつれていく一方です。
さらに徳次は夜遅くに帰宅する明子が自分に気を遣わなくて済むようにと、夫婦の寝室ではなく物置きになっている狭い三畳間に布団を敷いて眠るようになってしまったのです。
そんなふうに徳次との仲がギクシャクしていることに加えて、客に付き合って毎晩無理をしてお酒を飲んでいるせいで心身共に疲弊していた明子は、ある日家にやって来たチヌに対してついつい冷たく振る舞ってしまいます。
自分の夫とは違い、チヌの夫である公三郎は兵隊に取られることもなく五体満足でいることへの妬みが抑えきれなくなった結果でした。
明子は己の狭量さを嫌悪し、声の調子からそんな彼女の心境を察した徳次は妻を心配します。
久米親分が「料亭 巴」を訪れたのは、その矢先のことです。
久米親分は巴太夫だった頃の明子が身揚がりの客として迎えたただ1人の男性で、当時も2人の仲が噂になったことがありました。
しかも、久米親分の来店後、料亭の女中たちが
「本命は久米さんやねえの?久米様相手ん時はなんや色っぺえしなあ」
などと笑いながら話しているのを運悪く徳次が聞いてしまいます。
その時徳次は、下駄用の道具や木材を使って手探りで作った木彫りの品を持っていました。無気力だった夫が木彫りに挑戦していることを知った明子は喜び、
「できあがったら すぐ、うちに見せてえな。必ずやで」
と言っていたため、その品を彼女に見せに行こうとしていたに違いありません。
しかし女中らの話を耳にしてしまった彼は、明子と顔を合わせることもなく、木彫りの品を置いて家を出ていってしまったのでした。
声なきものの唄 108話 感想・考察
108話は、明子とその夫である徳次にスポットを当てた話です。
もともとの関係性や、明子がとても人気のある女郎であったことで、徳次はきっと結婚してからも妻に対して引け目を感じていたのではないでしょうか。だからこそ彼は、失明して働けなくなったせいでますます自分に自信を持てなくなってしまったように思えます。

明子の負担になりたくない徳次と、そんな徳次を気遣う明子の気持ちが見事にすれ違っていて、切なさが胸をしめつけました。2人は一体どうなってしまうのでしょうか。安武わたる先生、いつも素敵なお話をありがとうございます。

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